【役員インタビュー】お客さまに時間を使い、お客さまのために生きる。弥生が向き合い、提供する価値とは
弥生のセールス&マーケティング本部は、エンドユーザー向けのダイレクトマーケティングのほか、パートナーである会計事務所(PAP会員)向け営業、プロダクトマネジメント、マーケティングオペレーションなど複数の機能から成り立っています 。かつては大きく2本部に分かれていましたが、2024年10月からひとつの「セールス&マーケティング本部」として生まれ変わりました。
その陣頭指揮を執るのが執行役員 本部長の土肥です。2023年4月にジョインしてから、弥生のセールス&マーケティングのあり方に独自の哲学を持って新しい風を取り込んできた土肥にインタビューしました。
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―土肥さんは当時の弥生では珍しい外資畑のキャリアでした。今までのキャリアについて、簡単にお伺いできますか?
大学は電気電子工学科で、半導体を専攻していました。就職を考えた時に、自分はチームプレイが得意でないと思っていたこと、あと報酬は高い方がいいなという理由で野村総合研究所に入りました。 ですが、実際の配属は希望と異なったシステムインテグレーション部門でした。4年半勤めた後、エンジニアとして勝負していくのはあまり向いていないと感じたこともあって転職を検討しました。
当時は日本のIT業界が拡大している時期で、MicrosoftやOracle、Sun Microsystemsなど外資系の企業が次々と新しいテクノロジーを日本に持ち込んできていました。そのような状況で最先端のテクノロジーに触れてみたいと考え、Microsoftに入社しました。
当時のMicrosoftは今と比べれば小さかったですが、知名度はありました。だんだん、自分よりも会社の名前で仕事をしている感じを覚えるようになり、もう少し自分で勝負できる環境を求めて外資のスタートアップに転職しました。 以降はずっと外資で、日本法人立ち上げフェーズの会社を何社か経験してきました。
―エンジニアではなくなりましたが、弥生を含め一貫してテクノロジー業界に関わり続けているのには、何か業界への可能性を感じていたのでしょうか?
そうですね。なんなら最初はコンピューターが嫌いだったのに……(笑)。でもテクノロジーで世の中が変わるのを目にしてきて、テクノロジーには特に世の中を変える力があると感じています。
キャリアプランは「立てない」。一生懸命走った後に残ったものもキャリア
実をいうと、僕はキャリアプランっていうものを考えたことがないんですよ。だいたい思い通りにならないじゃないですか。思い通りにならないとムカついちゃうし(笑)
そもそもNRIではエンジニア以外の職種を希望していたのにエンジニアになったところからスタートしています。そこからMicrosoftに入社した時も、マーケティング職を強く目指していたわけではなく、半ば成り行きでした。今みたいに明確なポジションやジョブデスクリプションがあるわけではなかったし、エンジニアでなければどこでも頑張りますって(笑)。
Microsoftからはもう少し小さい会社に行きたいと思って転職しましたけど、その後の7社は自分から動いたというよりも、人とのご縁による転職なんです。
―人との縁で7社を転職、というのはすごい経験だと思います。土肥さんはご自身でどんな点が評価されているように考えていますか?
そういうと聞こえが良いかもしれませんが、そのうちの2社は日本法人を畳む結果になっていますし、不本意な形で去った会社もあります。
でもそんな困っている時に、いつも助けてくれる人がいました。それはその時にベストだと思ったことをその瞬間で一生懸命にやってきたのを、誰かが見てくれていたからだと思います。世の中は不確実であることを前提として、その場その場でベストを尽くす姿勢を皆さんに良く思っていただいたんじゃないかと思っています。
―そんな中、弥生へのジョインはどんなきっかけがあったのでしょうか?
実は弥生へのお誘いは最初お断りさせていただきました。理由はいくつかありますが、まずは日本企業になじめないかもと思ったことです。僕は忖度みたいな仕事ってできないし、外資は短期志向ですから、ちゃんとなじめるのかなあという不安です。あと、今だから正直に言ってしまうと弥生ってかっこよくないなって思って(笑)今まで横文字の会社ばかりだったから、漢字で「弥生」かあ……って。
かっこよくないものをかっこよく。きっかけは子供の一言。
失礼な第一印象でしたが、そこから「かっこよくないものをかっこよくするのもいいんじゃないか?」と思うようになりました。
かっこよくないものをかっこよくする、というのは実は子供から教わったことなんです。僕はプロ野球を見ることが好きで、ずっと巨人ファンでした。ところが15年前に子供と一緒に野球をみていたら、DeNAのファンクラブに入りたいと言い出しました。当時のDeNAは正直言ってあまり強いチームではありませんでしたが、彼は「弱いチームが強くなるのを応援したい」と言っていて。 ハッとしました。
弥生も同じです。弥生は歴史ある企業ですから、100年、200年と続く日本の「老舗IT企業」を作ってみるのも面白そうだなと。今まで仕事をしたことがない人たちと仕事してみることも自分の幅が広がりそうだと考えました。
弥生は会計ソフトの会社として大きな影響力を持っていますが、クラウド会計サービスに焦点を当てると、競合と比較して難しい立場にいることも事実です。ここをよくしていきたいですね。
現実に目を向け、お客さま第一の組織へ
―弥生に入社して1年半が経ちましたが、改めて弥生はどんな会社だと思われますか?
まず、すごく人が良いなと感じます。みんな助けてくれるし、足を引っ張りあったりすることもありません。半面、人が良いゆえに競争が少ないかなあと感じます。会社としてもすごくしっかりしていて、ルールや制度も整っている。逆にそれに縛られすぎる点もありますね。良い面もあれば、改善の余地もあるということです。
ひとつ厳しい視点から言うと、メタ認知が不足している面はあると思います。自分たちを時に実力以上に見ようとしていることがあるので、ここは一緒に変えていきたいです。僕の言うことにびっくりされるメンバー もいると思うんですけど、少しずつ変わっていければと思います。
―2024年10月から、今まで分かれていたセールスとマーケティングの機能が統合されました。この狙いを教えていただけますか?
シンプルな話で、お客さまの視点から考えた時にもっと一貫したサービスを提供する必要があると思いました。役割に応じたさまざまな部署が存在するのは当然ですが、それらが分断され、お互いが何をしているのかもわからない状況になってしまっていました。お客さまの望みは弥生製品を使って事業や業務をよりよくしたい、それだけです。
お客さまから見れば弥生はひとつ、お客さまに対してやることもひとつです。弥生として一体となってやっていけるようにするのが狙いです。
―土肥さんの理想とする組織や文化についてお伺いしたいです。どんな形を目指しているのでしょうか?
お客さまを第一に考えることです。迷ったり、考えたり、悩んだりしたとき、答えはお客さまが持っています。お客さまになるべく時間を使って、お客さまのために生きる。それができる組織ですね。
あとエンゲージメントも大切です。人によって働き方や目的に差はあると思いますが、僕は、最終的には、楽しく仕事してたくさんお金をもらうことがエンゲージメントに繋がっていくと思うんです。それが実現できる組織でありたいと考えています。
とはいえ、株主のことも考えて仕事しないといけません。僕たちは今非上場企業ですが、お金を出してくれている人たちが当然いるわけです。株主は言い換えれば僕たちに期待をして投資頂いているわけですから、売り上げや成果で答えないといけません。
答えはお客さまの中にある。役員自らお客さまの元へ向かう「こんにちは弥生ですプロジェクト」
―「こんにちは弥生ですプロジェクト」をはじめられたきっかけを教えてください。
社内で「弥生会計や弥生給与をお客さまは実際にどう使っているんですか?」って聞いたら、実はメンバーもあんまり知らなかったんですよね。かつ、弥生はWebや量販店での販売が殆どです。ITベンダーとしては日本最大級のカスタマーセンターがお客様を直接サポートしますが、それは電話での対応で、訪問して会って、話すことはしていません。だったらもう直接お客さまのところに行って聞いてくるしかないなと思って始めました。実際始めたら楽しくてしかたなくて、こんな素晴らしい体験を独り占めするのは良くないなと思って、アポイントは僕がとるからみんな行っておいでとメンバーの皆さんにも共有しました。
たぶん、みんな悩んでいることとか壁にぶつかっていることがあると思います。そういうのってだいたいお客さまと直接会って、会話すると答えがあったりするんですよね。そういうきっかけにしてほしいと思っています。
―印象に残っているお客さまの事例などはありますか?
漁業組合さんや廃棄物処理業者さん、畜産農家さんなど、普段なかなかお会いできない方にお会いできて面白かったですね。僕だけでなくメンバーの皆さんのレポートも拝見していますが、「請求書にこういう書き方をしたい」「納品書にはこれを載せたくない」といった、僕らには想像できなかった細かなニーズや使い方を知ることができ、非常に示唆に富んでいると感じますね。
Make Yayoi Great Again――弥生は一時代を築いたリーダーであるという矜持を持って
―土肥さんが作成されたMake Yayoi Great Again Tシャツについて、お伺いさせてください。
これ、公式のスローガンではなく僕が勝手に作ったものです。ご存じの通り元ネタはトランプ前米大統領(記事執筆時点)が前回の大統領選で掲げたものです。
平野さん(取締役会長 平野拓也)には「ダサいよ(笑)」って言われちゃったんですが、社内の人にはちらほら好評であるということを聞いて嬉しいです。
これを掲げようと思ったのは、昔は「弥生を使っている=かっこいい」というイメージがあったのに、今あまり聞かなくなっちゃったなと感じたところからです。かつては中小企業が経理部門の求人を出す時にも「弥生会計を使える方優遇」というワードを目にしていたし、そのぐらいの認知やインパクトがあり、本当に好かれていました。そんな「偉大な弥生」を僕らの手でもう一度、というのがこのスローガンとTシャツに込めた意味です。
―私たちに今必要なことは何でしょうか?
なんだかんだ言いますが、結局製品だと思います。モノが良くなければ始まりません。
弥生について、競合と比較した上でのいろいろなご意見がありますが、弥生は自計化市場における横綱的存在であり、デスクトップソフトを含めれば非常に大きなマーケットシェアを持っています。幸いにも財務的な安定感や余裕もありますので、僕たちは変に焦らず、お客さまとの信頼関係を大切にしながらユーザーに寄り添った製品を出していきます。基本に忠実に、というかお客さまに忠実に、という感じですね。
―これから拡大していく「弥生Next」が鍵になるのでしょうか。
はい。弥生の新ブランドである「弥生 Next」は、会計ソフト界の横綱である僕たちが「クラウド会計のあるべき姿」をマーケットに問いかける製品になります。日々製品を使っているエンドユーザーのお客さま、彼らを支える会計事務所の皆さまに向き合い、お客さまと一緒に再定義し、作っていく。
弥生はリーディングプロバイダーとして、お客さまやパートナー企業とのつながりを大切にし、しっかりとした製品を出していくことが重要だと思っています。クラウドサービスが普及している今だからこそ、その信頼関係を大切にしていきたいですね。
編集後記
弥生の現状と未来について、時に厳しく、ユーモラスに話される土肥さんは、長年極真空手に取り組まれている一方で、ジャズピアノと読書を楽しむ文化人な一面も。オフの日には近所の古本屋で掘り出し物を探すことを楽しんでいるそうです。
「キャリアプランは考えない」という、一見インパクトのあるスタイルも、マーケティングに限らず、経済や歴史、音楽など幅広いインプットに支えられた柔軟でスピーディーなアクションに支えられているのかもしれません。
「本を購入する際は、人に勧められたり、書評に載っているものを買ったり、もしくは人から頂いたりと、キャリア同様、そこに余り自分の強い意志はありません」とのことです。