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クラウド確定申告ソフト10周年インタビュー:「かんたん・やさしい」を超える!10年にわたる挑戦

弥生のクラウド確定申告ソフトが誕生してから10年——。この10年で、会計業務のあり方は大きく変わりました。

弥生はクラウドならではの便利さを活かし、これまで会計ソフトを使ったことがない方でも、スムーズに確定申告を行える環境を提供してきました。
今回の特別インタビューでは、製品立ち上げに関わったキーパーソンたちが、これまでの歩みとクラウドがもたらした変化、そしてこれからの展望について語ります。


【プロフィール】

(写真左から)
広沢
:次世代本部 次世代戦略部 部長(当時の役職:ビジネス戦略チーム マネジャー 会計製品担当)

橋本:執行役員 兼 開発本部長 兼 次世代本部長(当時の役職:「やよいの白色申告 オンライン」「やよいの青色申告 オンライン」PM)

鈴木:セールス&マーケティング本部 マーケティング統括部 部長(当時の役職:マーケティングコミュニケーション担当)
「やよいの青色申告 オンライン」を10年間利用するユーザーでもある


クラウド確定申告ソフト誕生の背景と当時の課題


ー製品誕生のきっかけとなった背景や市場の状況について教えてください

広沢:2014年から白色申告の記帳義務化が始まりました。この法改正により、新たに約150万人の白色申告事業者が記帳・帳簿等の保存が義務付けられるという非常に大きい環境変化でした。市場調査を通じて白色申告者は青色申告者以上に、確定申告に対して「手間がかかる」「難しい」等のマイナスイメージを持っていることや、記帳義務化により「自分にどう関係があるのかわからない」「記帳とは何をどうすればよいのかわからない」といった不安も抱いていること分かりました。
これを機に、従来のデスクトップソフトだけではカバーしきれない層まで届くソフトが必要だと考えました。まだ確定申告ソフトを使ったことがないような人へ、利用してもらいたい、という思いがありましたね。

鈴木:当時は、クラウド会計自体がまだ黎明期でしたね。他社も含め、まだクラウドでの確定申告が確立されていなかった時期です。

橋本:弥生ではクラウドの先駆けとして2012年に、「やよいの店舗経営 オンライン」をリリースしています。日本にはまだAWSやMicrosoftのクラウドサーバーがなかったため、富士通の海外サーバーを利用するなど、技術的な挑戦も多かったです。しかし、市場に定着するまでには至らず……※。
それでもクラウド技術に早くから取り組んだ経験は、その後の成長につながりました。当時から「市場の流れに乗り遅れてはいけない」という意識は強かったと思います。

※「やよいの店舗経営 オンライン」は2017年3月31日にサービス終了

「かんたん・やさしい」を超える!プロジェクト開始時の挑戦


ー各自の立場から見た、プロジェクト開始時に直面していた主な課題は何でしたか?

広沢: プロダクト企画という立場からすると、弥生がこれまでリーチできていなかったお客さまへアプローチするので、そういったプロダクトをどう企画していくか?もうそこに尽きましたね。デスクトップソフトでは既に「かんたん・やさしい」を掲げていたので、それを超える「かんたん・やさしい」って一体どういうプロダクトなんだ?っていう。そこが一番大きな課題でした。

ーどんなことに取り組みましたか?

広沢:これまで確定申告・会計ソフトを使ったことない人をターゲットとしていたので、基本ですけど、「お客さまを知る」ということを徹底しましたね。当時、実際に何人ものお客さまのもとに足を運んで、インタビューしました。仕事している環境や実際に実務で利用している帳簿を見せてもらったり。本当に手書きの帳簿を見せてもらって、「あ、こんな風につけてるんだ」と。まだ知らないお客さまのことを、自分がまずはしっかりと解像度を上げて把握するっていうことをすごく徹底したのを覚えてますね。当時は、一日中お客さまを訪問して、それだけで一日が終わっちゃうみたいなことも結構あったりしましたね。それだけたくさんのお客さまの元に足運んで、リアルな状況を見てくるっていうことをやっていました。

橋本:一緒に会計事務所へも行ったね。

ー橋本さん、鈴木さんは直面していた課題はありましたか?

橋本:当時のクラウド確定申告チームは、開発・マーケ・カスタマーセンターのメンバーが一体となり、チーム全員100%の熱量でモノづくり、サービスづくりに取り組んでいたと思います。一方で、そのチームの熱量と、それ以外の社内の温度差がしんどかったのは正直ありましたね。初期は、技術的な課題も多かったため、社内での理解を得るのが難しい時期がありました。特に、クラウドに対して批判的な意見もありましたし、デスクトップとの共存が疑問視されることもありました。しかし、2〜3年経過してユーザー数が増加し、社内でもクラウド製品が受け入れられるようになりました。最初の難しさを乗り越えた結果、現在の成長があると感じています。

鈴木:当時の会計ソフト普及率は今よりずっと低かったです。Excelや手書きで経理をやっている方へどう伝えれば刺さるのか、というところは悩みどころでした。最終的には、プロダクトビジョンとして「全ての個人事業主にスムーズな確定申告を」を掲げ、記帳から確定申告までワンストップで提供し、導入コスト0円というメッセージで打ち出しました。シンプルなメッセージが届いたと感じています。

ー開発チームとして、お客さまに「使いやすい」と感じてもらうために工夫したポイントは何ですか?

橋本:確定申告や会計ソフトが初めてという方に対して、どう楽に入力できるか、というところを向き合ってきました。「かんたん取引入力」という機能にはすごく時間使いましたね。あれは、シンプルなようで裏側が結構複雑なんですよ。

かんたん取引入力画面
取引例が検索でき、勘定科目がわからない人でも仕訳がつくれる

橋本:そして、この機能は非常に評判がよく、弥生会計16(デスクトップソフト)にも搭載されました。

ー「会計ソフト未経験者」をターゲットとした施策で、特に工夫したポイントは何でしたか?

鈴木:初期の頃は、まだクラウド黎明期。だから使ったことがある人はなかなかいません。そんな方にどうアプローチするかが一番の悩みでした。
そこで、使ってくださったお客さんの声をしっかり外に出していくというところを意識し、積極的に事例を出しました。お客さまの評判が新しいお客さまを呼ぶ、みたいなところはすごく意識していましたし、それがうまく循環したなと感じています。あとは、内部的な話ですが、ウェブマーケティングとかデジタルマーケティング自体が新しいチャレンジでした。思い返せば、失敗だった施策もありました。でもトライアンドエラーを繰り返すことで、回りだしたと感じています。

今だから言える失敗談…?!苦い経験が成長の糧に


ー10年間を振り返って、今だから言える失敗談などありますでしょうか…?

広沢:苦い思い出としては、当初はじめてのクラウド製品だったので、デモに苦戦しました。記者発表会でデモをする際に、急にログインできなくなったり、想定通りの動きをしなかったりすることがあったんです。デモ環境や本番環境の切り替えに慣れていなかったんですかね…。その時は本当に焦りました。結局、うまくデモができなくて、社長が急遽口頭で発表することになりました。あの時の緊張感と申し訳なさは今でも鮮明に覚えています。いろいろな失敗もしながら、今の私たちがあるんだと思います。

橋本:開発目線だと確定申告期間中の障害発生ですかね…。エンジニアは緊急対応で、終業後の時間帯でしたが急いでオフィスに再集合になりました。なんとかお客さまの確定申告に影響がない状態にできましたが、なんとも肝が冷えました。こうした試練を乗り越える中で、チームはより強固になり、開発プロセスも改善されていきました。

10年にわたる成長と今後の展望


ー弥生は10年以上にわたりサービスを提供し続けていますが、この間の成長をどのように感じていますか?

橋本:SaaSサービスが増える中でも、弥生は安定した成長を遂げています。市場の変化に適応しながら、顧客数の増加を実現できたことは、私たちの強みを証明していると感じています。お客さまが求める価値を提供し続けることで、今後も成長を続けていくことができると思っています。

鈴木:お客さまからのポジティブなフィードバックやレビューはいつも励みになります。また、2015年から開始されたMM総研社のシェア調査で、弥生がユーザーシェアNo.1であることを知り、市場で確実に認められている手応えを感じました。この調査は毎年行われているので、成績表のように毎年ドキドキしながら、市場での成果を確認しています。

クラウド会計ソフトの事業者別シェア (MM総研調査:2024年3月末)

ー現在、弥生は「弥生 Next」という新ブランドを立ち上げています。広沢さんはその製品企画を担う次世代戦略部の部長ですね。当時からの経験が、新製品へも繋がっているのでしょうか?

広沢:つながっていくと思います。それは何か表面的な機能とか画面とかそういうものではないと思っていて、どちらかというとこれまで培ったノウハウの部分です。とくに、お客さま視点でしっかり物事を考えていくという進め方ですね。今の「弥生会計 Next」は、弥生のクラウド確定申告ソフト立ち上げの時代と違い、どうしても競合の存在感に引っ張られてしまうことがあるんですよね。ただ、そんな中でも、より原点に立ち戻ってしっかりお客さまと向き合っていきたいです。あとは、ここ数年で新しいメンバーが多く占めるようになったんですけど、私自身は、過去の知見や経験を持っていることで、同じ轍を踏まずに済むケースっていうのもあったりできるんですよね。なので、結果として、それが検討の質やスピードを上げることにもつながっていると思います。

ー最後に、お客さまへのメッセージをお願いできますか?

橋本:多くのお客さまに支えられて、弥生のクラウド会計ソフトは10年という節目を迎えることができました。ありがとうございます。みなさまは日本経済の屋台骨であり、地域社会の活力の源泉です。1人1人のお客さまを支えていくことで、日本全体の好循環をつくれるよう、これからも精進していきます。今後は、これまで蓄積したさまざまなデータを活用し、AIをはじめとしたテクノロジーと掛け合わせることで、半歩先を見据えた価値提供で、中小企業の道筋を照らす存在を目指します。日本の中小企業を支え続け、日本の経済全体の活力向上に貢献していきます。

鈴木:確定申告は個人事業主にとって、本当にストレスフルな作業だと思います。しかし、その作業を終えたときには達成感があり、数字が可視化されることで得られる喜びがあります。「やよいの青色申告 オンライン」は、その作業のストレスを、帳簿作成の自動化、ガイダンスによるスムーズな申告書作成、e-taxでの電子申告で解き放ってきました。私も、やよいの青色申告オンラインの1ユーザーですが、10年前と比較するとすごい進化で、もう戻れません!私たちが目指してきたのは、このような新しいスタンダードを作り上げることです。
私たちはこれからも新しいスタンダードを作り続け、皆さまと共に発展していきたいと考えています。ぜひ、これからも引き続きご期待いただき、一緒に成長していきましょう。

広沢:まずは月並みな言葉になってしまいますが、心から感謝の気持ちでいっぱいです。
そして、私たちのサービスが皆さまの事業を支える一翼となっていることに大きな意義を感じています。これは個人の力だけでは決して成し得ないことですが、弥生のチーム全員の力が合わさることで、多くのお客さまの事業を支えられているのだと思います。私個人の力は微力ですが、その一員であることを光栄に思いますし、大きなやりがいを感じています。
これからもお客さまにより良い価値を提供できるよう努力してまいりますので、ぜひ引き続きご期待ください。



編集後記

クラウド確定申告ソフト誕生の背景や開発当時の課題について改めて伺う中で、当時のチームがどれほどお客さま一人ひとりに真剣に向き合い、丁寧にプロダクトを作り上げてきたのかを深く知ることができました。その姿勢に改めて尊敬と誇りの気持ちを抱いています。

10年間という長い年月、サービスを提供し続けてこられたのは、ひとえにお客さまのおかげです。いま私たちは、「弥生 Next」という新たなプロダクトの開発に取り組んでいます。このクラウド確定申告ソフトに込められた思いもしっかりと受け継ぎながら、これからもお客さまと真剣に向き合い、より良いものづくりに励んでいきたいと改めて思います。

これからも個人事業主の確定申告を支え続ける存在でありたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします!