お客さま対応のノウハウを込めた AIチャットボット開発の裏側
弥生カスタマーセンターでは、2024年3月にチャットボットをリニューアルしました!
リニューアルに際し、最新のテクノロジーであるAIチャットボット機能を導入しました。このプロジェクトは、お客さま対応を担当する顧客サービス本部のメンバーが主導となって、開発を進めました。
AIチャットボット開発の舞台裏やその過程での開発チームの苦労、そしてカスタマーセンターの進化についてご紹介していきます。
【お話を聞いた方】
時代の変化に合わせ、対応したカスタマーセンターであり続けるために
ーAIチャットボット開発の背景には、弥生カスタマーセンター全体のプロジェクトがあると伺いました。まずは、そちらについて、お話を聞かせてください。
松本:「業務改革プロジェクト」という弥生カスタマーセンター全体のサービス向上を目指すプロジェクトがあります。
このプロジェクトは2つのスコープがあり、1つ目は、「次世代コンタクトセンター」という弥生 Nextなど弥生の新しいブランドや製品群に対応するためのカスタマーセンターづくりの観点、2つ目は、今までのカスタマーセンターの改善です。
ーなぜ「業務改革プロジェクト」を行うことになったのですか?
松本:弥生では、これまで「事業コンシェルジュ」というビジョンを掲げて、オペレーター一人ひとりに実務教育を実施し、誰が応対しても、つねに最高のサービスを提供できるよう、万全の体制を整えてきました。おかげさまで、満足度も93%と高いご評価をいただいています。
一方で、お客さまの中でも高いITリテラシーを持つ方も増え、電話以外の手段でのお問い合わせニーズが増えました。また生成AIの台頭で使える技術が増えているなど、時代の変化もあります。
そうした時代の変化に合わせ、対応したカスタマーセンターであり続けるために、本プロジェクトに取り組んでいます。
ーAIチャットボットもそのプロジェクトの一環ということですね。プロジェクトの中で、AIチャットボットを導入する狙いは何ですか?
松本:先ほど お話しした通り、お客さまのITリテラシーも変わってきている中で、全てのお問い合わせをお電話で受けるのではなく、自己解決ができる手段を増やしたいという狙いがあります。
従来はFAQコンテンツやWebでの一方的な発信でしたが、これからはお客さまの疑問に直接対応できるようにしたく、チャットボットのリニューアルに踏み切りました。
ー従来のチャットボットと比べて、新しいAIチャットボットにはどのような違いがありますか?
鈴木: 従来のチャットボットは、選択肢に沿って質問を探しに行く形式で、お客さまが自由に疑問に思ったことを記入できる仕組みではありませんでした。繁忙期などにはチャットボットが割と活用されてはいたものの、自由度や解決できることも少なかったです。
松本: 新しいAIチャットボットはテキスト入力が可能になり、お客さまの意図をAIが理解する工程が加わりました。その回答をAIが解釈し、回答候補の選択肢を表示できるようになったことも大きな違いです。
鈴木:また、従来のチャットボットは、有人オペレーターに繋がるチャットサポートとチャットボットが別々にありました。現在は、チャットボットが入口となり、チャットボットで解決できない場合は、そのままシームレスに有人オペレーターによるサポートを受けることができます。
カスタマーセンター総力戦であらゆるノウハウを集積。想像以上に複雑だったAIチャットボットの開発過程
ーチャットボットへのシナリオ学習過程はどのように進めましたか?
松本: シナリオ学習はお客さまの問い合わせを分析することから始まりました。インテントを作成し、学習データを作成して回答文面を整えるという流れです。問い合わせのボリュームゾーンを理解し、カバーする範囲を決め、最終的に細かいインテントを作成しました。
ーインテントとはどのようなものですか?
鈴木:例えば、問合せのボリュームゾーンとして「パスワード」に関するものがあります。そこから、具体的なインテントを整理します。
パスワードのお問い合わせを分解していくと、「アカウントのパスワードを忘れた」「新しいパスワードを設定したい」 などのインテントに分解できます。
ーシナリオ学習において、これまでのカスタマーセンターのノウハウが活かされたと感じたエピソードなどがありましたら教えてください。
松本: 日々お客さま対応の履歴をデータとして残しており、カテゴリー選択ができる状態にしています。製品担当のスペシャリストから意見をもらい、そのカテゴリーを細分化しました。「製品をバージョンアップしたい」など具体的な言い回しまで落とし込むことができました。お客さまの多様な言い回しをAIにインプットし、「バージョンアップ」「アップデート」など様々な表現を学習させました。
―開発の進行管理において、特に大変だったことや困難に直面したエピソードを教えてください。
松本:チャットボットの開発過程においては、あらゆる製品やオペレーションにおける、カスタマーセンターのノウハウを入れる必要がありました。そのため、顧客サービス本部のさまざまなメンバーの協力が不可欠でしたね。部署間にまたがり協力をお願いしていたので、やりたいことを伝えるのは難しかったです。
鈴木: 基本的にはSlackで連絡を取ることが多いのですが、ときには、Zoomで会話したり、文字では伝わらないニュアンスを補ってました。
松本: プロジェクト内では完結できない問題も多く、分析方法の検討から始めました。コンサルという形で外部のパートナーさまも入っていたものの、問い合わせの分析は完全に社内で行いました。
鈴木: AIに学習させるデータは実際にお客さま対応を担当しているメンバーの知見が必要だと感じ、現場の方々と協力して作成していきました。弥生で受ける問い合わせは本当に難しいなと改めて実感しましたね。
ーどのあたりが難しいですか?
鈴木:弥生製品はまず、種類が多いですね。例えば、「弥生会計」でもデスクトップソフトとクラウドサービスの2種類があります。さらにデスクトップソフトでは、“スタンダード”や“プロフェッショナル”といったグレードの違いもあり、それぞれできることが異なります。
さらに、一つの問い合わせでも、次にやりたいことによって、操作方法が違ったりするんです。例えば、「バックアップしたい」という問い合わせがあった場合、保存したいのか、他の誰かに送りたいのか、あるいは案内方法を知りたいのか、その目的や背景によって、微妙に案内の仕方が変わるんです。
AI検証テストを行い、異なる回答が出た場合はインテントを正確に調整、AIをチューニングをしていきましたね。具体的には、お客さまの意図にあった回答が出せるように、色々な言い回しをAIに覚えさせました。単純に覚えさせれば完璧というわけではないので、そこからチューニングを実施したりして、整えていくのが難しいかったですし、まだ課題になる部分ですね。AIが迷った場合は、複数の回答を提示するようにしました。
将来的には、お客さまの問い合わせの4割をチャットボットで解決へ
ー実際にチャットボットを使用した人のフィードバックについて教えてください。
鈴木: リリース前に社内テストを行いました。初回はプロジェクト側で、2回目は顧客サービス本部全体で自由にテストしてもらいました。
松本: その際は、フィードバックを多くいただきました。「AI」という言葉が社内で一人歩きしてしまう部分もありますが、多くの人が興味を持ってくれていますね。まだまだチャットボットだけでは解決できないという声もありますが、これも重要な意見として受け止めています。
鈴木: AIは学習させることが大事ですので、ログを取って改善していくことで、まだまだ伸びしろがあると感じています。現在のチャットボットは500の回答を持っていますが、今後はお客さまの問い合わせデータを追加し、回答を増やしていきたいです。
将来的には、お客さまの問い合わせの4割を解決できるようにすることが目標です!
ー最後に、お客さまへのメッセージをお願いします。
鈴木:今はまだ精度としてお客さまのお役に立てない部分もあるかもしれません。ですが、できればどんどん使っていただき、期待をしてほしいですね。今後は、チャットボットの運用は、お客さま対応の部署が担っていくので、今まで以上にお客さまの声を反映していくと思います。チャットボットは皆さまのお声でさらに成長していきます。
松本: 弥生のチャットボットは、まだまだ伸びしろがあります。お客さまからのフィードバックをどんどんいただき、それを基に成長していきたいと思います。ぜひ、AIチャットボットをたくさん活用していただき、気づいた点をフィードバックいただけると嬉しいです。
編集後記
AIチャットボットのリニューアルの取材を通じて、顧客サービス本部が行っているお客さま対応の複雑さとレベルの高さを改めて実感しました。
「AI」チャットボットということで、AIの力に期待が大きい中ですが、そこには、プロジェクトメンバーが丁寧に、学習と調整を行い、完成させたシステムだということがよくわかりました。(そして今後の進化にも期待!)
今後も弥生カスタマーセンターがどのように進化し、お客さまのニーズに応えていくのか、ぜひご注目ください。